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——カラン。来客を告げる、涼しげなベルの音と消毒薬の匂い。
偉そうにふんぞり返って椅子に座る主の、色だけは可愛らしい
剣呑な瞳に出迎えられて。
へらり、締まりの無い笑みを向けた。
「…又、テメェか」
大げさな溜息に軽く頭を掻く仕草は、若干照れ臭そうに。
「今日は何処だ」
そう短く問い掛けられ
「…肩」
と同じく短い言葉を返した。
「座れ」
告げられて、大人しく丸椅子に腰掛けた。
無言で肩口の傷に視線を走らせれば、優しさなど
欠片も見当たらない仕草で消毒液を派手にぶっかけるその所行に
「もう少し、優しくして欲しいんやけど」
と、若干顔を顰めながら告げれば
「テメェにゃ此くらいで丁度良いんだ」
と又、ぶっきらぼうな言葉が返る。
くわえ煙草の紫煙を燻らせながら、黒いシャツのボタンを三つも開け
銀色の貴金属をジャラジャラ揺らしながら消毒液と包帯を
操る目の前の相手は、矢張り何度見ても医者には見えない。
「…詐欺だって、言われへん?」
ちらりと視線を向ける。此で患者は案外多いのだから不思議な話だ。
「…銃痕かぃ。物騒だぁな」
それには答えず、傷跡に包帯を巻き付けながら小さく呟くその声に。
「…何時もの事や」
と告げる此方の声音は、若干トーンが落ちた。
どうした、と貌を上げる相手の、薄紅色の瞳が
己の瞳を静かに見詰める。
「…いや、何か。…何やろ。ちょっとだけ、控えた方がえぇんかな、って。
怪我とか事件とかに自分から顔突っ込むの」
ぼそぼそと囁くように呟いた己のその言葉に
ほぅ、と瞳を細めながら、珍しい物でも見るような顔付きで
「…大事な奴でも出来たかぃ」
と、からかうように告げられた。
思わず、そんなんやない、と声を荒げるも、
唯言葉小さく笑われてかわされてしまう。
「良い傾向だ」
終わったよ、との言葉と共に、頭を子供のように撫でられて。
思わず、ふくれっ面。
もう帰る、と立ち上がれば、背後から投げ掛けられる、最後の
「御前さん、表情豊かになったなぁ」
思わず、振り返ったけれど。
急に、恥ずかしくなって。逃げるように立ち去ったその場。
——ぱたん。閉まる扉を確認してから。
「雨続きだった所に、お天道さんが顔出して、
青空が垣間見えた…、ってトコかねぇ…——」
煙草の灰を灰皿に押し付け、瞳細めて静かに。
———笑った。
===========================
沙砂と四月一日の競演。二人は知り合い。
怪我をすると、おっちゃんのトコに行って
治して貰うみたいです。時期は…ぅん。解る人は解る筈。
未だ気持ちが曖昧だった頃のお話。
偉そうにふんぞり返って椅子に座る主の、色だけは可愛らしい
剣呑な瞳に出迎えられて。
へらり、締まりの無い笑みを向けた。
「…又、テメェか」
大げさな溜息に軽く頭を掻く仕草は、若干照れ臭そうに。
「今日は何処だ」
そう短く問い掛けられ
「…肩」
と同じく短い言葉を返した。
「座れ」
告げられて、大人しく丸椅子に腰掛けた。
無言で肩口の傷に視線を走らせれば、優しさなど
欠片も見当たらない仕草で消毒液を派手にぶっかけるその所行に
「もう少し、優しくして欲しいんやけど」
と、若干顔を顰めながら告げれば
「テメェにゃ此くらいで丁度良いんだ」
と又、ぶっきらぼうな言葉が返る。
くわえ煙草の紫煙を燻らせながら、黒いシャツのボタンを三つも開け
銀色の貴金属をジャラジャラ揺らしながら消毒液と包帯を
操る目の前の相手は、矢張り何度見ても医者には見えない。
「…詐欺だって、言われへん?」
ちらりと視線を向ける。此で患者は案外多いのだから不思議な話だ。
「…銃痕かぃ。物騒だぁな」
それには答えず、傷跡に包帯を巻き付けながら小さく呟くその声に。
「…何時もの事や」
と告げる此方の声音は、若干トーンが落ちた。
どうした、と貌を上げる相手の、薄紅色の瞳が
己の瞳を静かに見詰める。
「…いや、何か。…何やろ。ちょっとだけ、控えた方がえぇんかな、って。
怪我とか事件とかに自分から顔突っ込むの」
ぼそぼそと囁くように呟いた己のその言葉に
ほぅ、と瞳を細めながら、珍しい物でも見るような顔付きで
「…大事な奴でも出来たかぃ」
と、からかうように告げられた。
思わず、そんなんやない、と声を荒げるも、
唯言葉小さく笑われてかわされてしまう。
「良い傾向だ」
終わったよ、との言葉と共に、頭を子供のように撫でられて。
思わず、ふくれっ面。
もう帰る、と立ち上がれば、背後から投げ掛けられる、最後の
「御前さん、表情豊かになったなぁ」
思わず、振り返ったけれど。
急に、恥ずかしくなって。逃げるように立ち去ったその場。
——ぱたん。閉まる扉を確認してから。
「雨続きだった所に、お天道さんが顔出して、
青空が垣間見えた…、ってトコかねぇ…——」
煙草の灰を灰皿に押し付け、瞳細めて静かに。
———笑った。
===========================
沙砂と四月一日の競演。二人は知り合い。
怪我をすると、おっちゃんのトコに行って
治して貰うみたいです。時期は…ぅん。解る人は解る筈。
未だ気持ちが曖昧だった頃のお話。
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——どうせ、儚く散っていくだけの人生ならば。
せめて、夜空を彩る、あの美しい大輪の花の様に。
———瞬だけで、良いから。
————綺麗に、咲きたいと思ったんだ。
半分、開け放された障子の向こう。賑やかなお囃子と、太鼓の音。
普段は精々、虫の声と風の音しか聞こえぬ空間が、今夜ばかりはとても、艶やか。
古い歴史が刻まれた、天井の染みを脳裏の中、数えることから少々意識を
逸らしてみれば。——嗚呼、祭りの歓声が、一際大きく心の内部に届く。
綿飴、リンゴ飴、たこ焼き、カラメル焼き、ぽっぽ焼きに薄荷パイプ。
くじ引き、輪投げにお面、凧。——そして、金魚掬い。
未だ、この身体が正常に動いていた幼少時代。親に連れられ、
おろし立ての着物を身に纏い、歩いた記憶。
様々なものを買って貰い、悦びと嬉しさに笑った記憶。
露天の金魚を三匹掬って、水差しの中を泳がせた記憶。
——だけど、金魚は直ぐに、死んでしまった。
狭い水差しの中では、苦しくて。
呼吸が出来ぬと、藻掻くのだ。
不意に、障子の向こう側に気配を感じた。
視線を向ける。——此の部屋に、決められた時間以外に
誰かが立ち入る事など、今迄にあっただろうか、と巡らせる思考。
あの時から、此の部屋の時間は止まっていて。
好き好んで近付く物など———居なかった、筈。
ひょこ。
されど、そんな思惑は突如、思わぬ人物の来訪によって、打ち消された。
ふわふわした、茶色の目。大きな茶色の瞳は、僅かな緊張からか
大きく見開かれ、此方を凝視するように見つめている。
深い緑色の着物を身に纏った——幼い、少年。
「——お入り」
ふわ。緊張を解いてやるように、優しく笑った。
敷きっぱなしの布団から、上体だけを起こして手招く仕草。
多少、緊張が解れたのか、少年は数秒間を置いた後、
部屋へと入って、こう言った。
「…風邪、引いてるの…——?」
向けるのは、何処か曖昧に揺らぐ、一陣の風のような微笑みだけ。
「…見てみぃ。…——花火、あがった…———」
指差したのは、障子の向こう。朱や青、黄色、緑…
様々な色の洪水。大きな音と、炎の競演。
火花が散って、舞い上がって、消えて——又、上がる。
思わず、障子の側へと駆け寄る少年は、きらきらした
無邪気な瞳を夜空へ向けて、とても楽しそうに笑っていた。
「——綺麗やろ?」
勢い良く、頷く少年の頭に、白い片手を伸ばして、撫でてやって——
「お姉さんも、綺麗だよ」
帰ってきた言葉に、面食らって瞬かせる、瞳。
「…そか。——有り難うな」
されど、訂正はしないでおいた。
きっと、もう逢う事も無いだろうと。
勝手に己の中で結論付けて、しまったから。
天鵞絨の夜空に、大輪の花。
光の渦の色に染まった、少年の手足と白い顔。
無邪気に笑う横顔と、あどけない茶色の大きな瞳。
そうして、最後の花火が打ち上げられて、闇の中へと消えた時。
少年の母親だろうか。子を呼ぶ声音が、耳に入り。
意識は急速に、現実へと引き戻される。
「…お母さん、呼んどるよ。——そろそろ、お帰り。
——嗚呼、良かったら、これ、持っていきぃ」
差し出す色取り取りの金平糖が入った袋は、花火の欠片のようだと思った。
満面の笑みと共に、それを受け取り、引き戸に片手をかける少年は
最後に、振り返って、首を傾げながら、問い掛ける。
「どうも有り難う。ねぇ、お姉さん、なんていう名前なの…?」
「…鴫」
思わず、名乗ってしまったのは、何故だろう。
考える術も無く、やがて——引き戸は閉まり。
祭りは幕を閉じ。———静寂だけが、訪れる。
「お母さん、これ、貰ったー」
「あら、良かったわね。ちゃんとお礼、言った?」
「言ったよー」
最後に、そんな会話を脳裏の何処かに刻みつけ。
——身体を丸めて、咳き込む夜更け。
古びた枕元の懐中時計が、夜半21時を告げる頃。
何時ものように扉が開いて、白い盆に薬と水差しを乗せたものを片手に、
何時もの姿で何時も通りに——現れる女中。
「…お薬の時間ですよ」
「…なぁ、今日…——可愛い男の子が、此処に…来たんやけど…」
「…ああ。「伊瀬里」の坊ちゃんじゃないですか…?」
「…料亭の…——?」
「ええ、祭典の御挨拶に伺われましたよ」
されど、何時も通りの短い会話は、今日だけ少し、長かった。
そう、と小さく頷いて、「お大事に」と色のない言葉を残して。
去っていく、女中の後ろ姿を眺めて、から。
———何度も、何度も。無邪気な少年の、あどけない笑顔と。
打ち上げ花火の美しさを、心に描いて。
———「また、来ても、良い?」
最後の最後に、少年が残した純粋な問いに。
答える言葉を持たなかった自分を、酷く罵って。
少しだけ、悔やんで。
———乾いた喉を、掻きむしった、夜の事。
例えるなら、そう。
一夜の儚い、夢花火。
===================================
背後会話から生まれた、某方とのファーストコンタクト。
書きたかったのは「儚さ」と「夏の匂い」
——ぅん。もう少し文章力を下さい(遠い目)
此は、冬編「雪花」に続く(予定)です。
暫し、お待ちを。
せめて、夜空を彩る、あの美しい大輪の花の様に。
———瞬だけで、良いから。
————綺麗に、咲きたいと思ったんだ。
半分、開け放された障子の向こう。賑やかなお囃子と、太鼓の音。
普段は精々、虫の声と風の音しか聞こえぬ空間が、今夜ばかりはとても、艶やか。
古い歴史が刻まれた、天井の染みを脳裏の中、数えることから少々意識を
逸らしてみれば。——嗚呼、祭りの歓声が、一際大きく心の内部に届く。
綿飴、リンゴ飴、たこ焼き、カラメル焼き、ぽっぽ焼きに薄荷パイプ。
くじ引き、輪投げにお面、凧。——そして、金魚掬い。
未だ、この身体が正常に動いていた幼少時代。親に連れられ、
おろし立ての着物を身に纏い、歩いた記憶。
様々なものを買って貰い、悦びと嬉しさに笑った記憶。
露天の金魚を三匹掬って、水差しの中を泳がせた記憶。
——だけど、金魚は直ぐに、死んでしまった。
狭い水差しの中では、苦しくて。
呼吸が出来ぬと、藻掻くのだ。
不意に、障子の向こう側に気配を感じた。
視線を向ける。——此の部屋に、決められた時間以外に
誰かが立ち入る事など、今迄にあっただろうか、と巡らせる思考。
あの時から、此の部屋の時間は止まっていて。
好き好んで近付く物など———居なかった、筈。
ひょこ。
されど、そんな思惑は突如、思わぬ人物の来訪によって、打ち消された。
ふわふわした、茶色の目。大きな茶色の瞳は、僅かな緊張からか
大きく見開かれ、此方を凝視するように見つめている。
深い緑色の着物を身に纏った——幼い、少年。
「——お入り」
ふわ。緊張を解いてやるように、優しく笑った。
敷きっぱなしの布団から、上体だけを起こして手招く仕草。
多少、緊張が解れたのか、少年は数秒間を置いた後、
部屋へと入って、こう言った。
「…風邪、引いてるの…——?」
向けるのは、何処か曖昧に揺らぐ、一陣の風のような微笑みだけ。
「…見てみぃ。…——花火、あがった…———」
指差したのは、障子の向こう。朱や青、黄色、緑…
様々な色の洪水。大きな音と、炎の競演。
火花が散って、舞い上がって、消えて——又、上がる。
思わず、障子の側へと駆け寄る少年は、きらきらした
無邪気な瞳を夜空へ向けて、とても楽しそうに笑っていた。
「——綺麗やろ?」
勢い良く、頷く少年の頭に、白い片手を伸ばして、撫でてやって——
「お姉さんも、綺麗だよ」
帰ってきた言葉に、面食らって瞬かせる、瞳。
「…そか。——有り難うな」
されど、訂正はしないでおいた。
きっと、もう逢う事も無いだろうと。
勝手に己の中で結論付けて、しまったから。
天鵞絨の夜空に、大輪の花。
光の渦の色に染まった、少年の手足と白い顔。
無邪気に笑う横顔と、あどけない茶色の大きな瞳。
そうして、最後の花火が打ち上げられて、闇の中へと消えた時。
少年の母親だろうか。子を呼ぶ声音が、耳に入り。
意識は急速に、現実へと引き戻される。
「…お母さん、呼んどるよ。——そろそろ、お帰り。
——嗚呼、良かったら、これ、持っていきぃ」
差し出す色取り取りの金平糖が入った袋は、花火の欠片のようだと思った。
満面の笑みと共に、それを受け取り、引き戸に片手をかける少年は
最後に、振り返って、首を傾げながら、問い掛ける。
「どうも有り難う。ねぇ、お姉さん、なんていう名前なの…?」
「…鴫」
思わず、名乗ってしまったのは、何故だろう。
考える術も無く、やがて——引き戸は閉まり。
祭りは幕を閉じ。———静寂だけが、訪れる。
「お母さん、これ、貰ったー」
「あら、良かったわね。ちゃんとお礼、言った?」
「言ったよー」
最後に、そんな会話を脳裏の何処かに刻みつけ。
——身体を丸めて、咳き込む夜更け。
古びた枕元の懐中時計が、夜半21時を告げる頃。
何時ものように扉が開いて、白い盆に薬と水差しを乗せたものを片手に、
何時もの姿で何時も通りに——現れる女中。
「…お薬の時間ですよ」
「…なぁ、今日…——可愛い男の子が、此処に…来たんやけど…」
「…ああ。「伊瀬里」の坊ちゃんじゃないですか…?」
「…料亭の…——?」
「ええ、祭典の御挨拶に伺われましたよ」
されど、何時も通りの短い会話は、今日だけ少し、長かった。
そう、と小さく頷いて、「お大事に」と色のない言葉を残して。
去っていく、女中の後ろ姿を眺めて、から。
———何度も、何度も。無邪気な少年の、あどけない笑顔と。
打ち上げ花火の美しさを、心に描いて。
———「また、来ても、良い?」
最後の最後に、少年が残した純粋な問いに。
答える言葉を持たなかった自分を、酷く罵って。
少しだけ、悔やんで。
———乾いた喉を、掻きむしった、夜の事。
例えるなら、そう。
一夜の儚い、夢花火。
===================================
背後会話から生まれた、某方とのファーストコンタクト。
書きたかったのは「儚さ」と「夏の匂い」
——ぅん。もう少し文章力を下さい(遠い目)
此は、冬編「雪花」に続く(予定)です。
暫し、お待ちを。