初体験

…色々な。

ああ、色々初体験だ。

…テメェだから、言ったんだ。
テメェだから、言ってやったんだ。

…じゃないと、また家出とか、どうせすんだろ？

言葉足りねぇとか、なんかいつも色んな奴に言われるから、とか
そういう理由じゃなくて。

——テメェだから、言ったんだ。

それだけだ。

あ？もう一回言えって？

…——っ、ざけんな…——ッッ（赤面）

餓鬼

…知ってる、っつーの。
正論ばっかり向けてきやがって、勝ち誇ったように
シナ作って笑いかける。…言ってる方は楽だよな。
それすら、全部解って言ってンだろ、あの糞狐。

…けど、けど——や、良い。癪だから、言わねぇ。

本心を見せる相手は一人で良い。それには気付かされたよ。

向かえに行って…なんだよ、ンな顔すんじゃねぇよ。
…ちゃんと来ただろ。…帰るぞ、俺の家に。いつまでもそんなとこに居るな。
テメェの居場所はそこじゃねぇだろって。

帰りに、例のケーキ屋連れてって好きなの選ばせてやって。
…誰だ、御機嫌取りとか言ってる奴は。

店員も、俺ら二人を何度も見比べてんじゃねぇよ。
…けど、ちらっと顔上げたらすぐ眼ぇ逸らすんだよな。
——ったく、どいつもこいつも。

…餓鬼だと何度罵られても。
人には人のペースがあんだろ…きっと。
負け惜しみかも知れねぇけど…全てを見透かしたような眼で
真っ直ぐに、真っ直ぐな言葉を直視しながら向ける糞狐。

…やっぱり気に食わねぇンだよ。悪かったな。

不器用

そいつが診療所を訪ねてきたのは夜明け前。
雨交じりの冷たい雪が降りしきる、そんな凍える時間帯に
負けじと劣らず体温が失せた白磁の身体を引っ提げて。

——扉を開ける前に、蹌踉けたのか前のめりに倒れ込むその身体を。

仕方ないから片手だけで抱き留めて、深々と吐き出す溜息は、きっと
普段の犬臭さに加えて、ヤニ臭くもあっただろう。ほんの少しだけ
嫌そうに顔を顰める奴の顔は、青白いを通り越して蒼白だった。

——ああ、コイツ、相当———

口を開こうと顔を上げたところで、先に耳に聞こえる掠れた声音。

「薬で良い」