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生まれた時から、恵まれていた。
富も、地位も、美貌も、名声も、周りからの信頼も。
欲しいモノは全て、与えられた。
服も、宝石も、お金も、友達も、そして異性も。
——だけど、与えられるそれらを、己自身で選ぶ事は
何一つとして、出来なかった。
与えられるモノだけを、唯笑顔作って手元に置き
受容して受け入れるだけの——そんな、日々。
ぬるま湯に浸るように、刺激も痒さも痛みも、そして
快感も満足度も、達成感も無い。例え何を手に入れたとしても。
———そんな時間が、永遠に続くと思っていた。
ずっと。
「上条 白姫」として、此の世に生を受けてから。
財閥の一人娘として、其れこそお姫様のように、
可愛がられて育てられ、甘やかされ。
一人では塀の外も満足に歩けないような
トイレの入り口ですら、ガードマンが張り付くような。
——純白のドレスに、淡い桃色のリボン。
黒曜石のように艶めいた長い髪。
鮮やかな翠の瞳は、西洋生まれの母親から受け継いで。
綺麗に磨かれた革靴を鳴らしながら、土埃一つ立たないような
整備された歩道のみ、歩かされる。
移動は殆ど、高級な車輪の付いた乗り物で。
——ずっと。
そんな日々が、続くと、思って、いた。
「籠の中から、連れ出してあげますよ。シラキ」
そんな巫山戯た戯れ言を、軽く笑いながら寄越して。
此方に伸ばされる、日に焼けた逞しい片腕。
異国の血を思わせる、鮮やかなブロンドに蒼の瞳。
「染めたんだけどな?眼はカラコン」
——嗚呼、一瞬騙されて仕舞ったけれど。
表を向けて、差し出された大きな大きな、掌を。
戸惑いながらも、あの日私は、取ってしまった。
「——蒼樹」
「下の名前で呼んで下さいよ、姫さん」
「私は貴方の下の名を知らない」
「教えてあげます。 姫さんにだけ」
「姫さんは止めてくれないか。 …さっきみたいにシラキと」
「なら、俺の事は……『 』と呼んで下さい。これから」
「これから ?」
「死ぬまで、ずっと」
「——本気か?」
「俺は最初から、本気でしたよ。盗賊はね、欲しいモノは
何としてでも手に入れるんです。命をかけてでも」
「後悔するぞ。直ぐに」
「しません」
その日。
——私は「上条 白姫」を棄てた。若干二十歳の、誕生日。
それから。
数々の追っ手を振り払い、探し人と指名手配のビラを剥がし
山を登って谷を越え、海を渡って——彼と共に。
財閥の御令嬢から、凶悪な盗賊団に攫われた一人の女になって。
だけど。
一緒に過ごせた時間は、余りにも——
短かった。
追っ手から無事逃れる事が出来たのに。
誰にも捕まらずに逃げ通せたのに。
海を渡って、辿り着いた平和な場所で。
ずっと幸せに浸りながら、生きていけると思っていた———
「もう、駄目なのか…?」
「俺も、やれる手段は全部試した。——悪ぃ」
「…いや、御前がそう言うなら、他のどの医者を当たるまでも無い」
「——悪ぃな。彼奴、ずっと黙ってたンだろぅ。——限界迄」
新たな土地で知り合った、一件医者に見えぬチャラチャラした男は
眼を伏せながらそう言った。獣のニオイを微か漂わせる彼は
自称、人外専門医と名乗る男で、普段純粋な人間は診ないと言う。
私が好みのタイプだったから、願いを聞き入れて
診察したのだと、冗談気に笑いながら。
されど、患者の様子を一目見れば、直ぐに笑顔は悲痛めいた
沈黙へと変化を遂げた。——末期の、伝染病だった。
幼い頃、過保護故幾つもの予防接種と度重なる健康診断に
守られていた私だけが、感染せずに済んだ根の深い病。
他の仲間も、次々、見知らぬ土地で果てていった。
「 『 』…入るぞ」
「嗚呼…シラキ。すまねぇなぁ。心配かけて」
「…馬鹿、言うな」
「——泣くなよ」
「泣いてなんか、無い」
…あのな。
今更、だけどヨ。
コレ、ずっと、持ってた侭、渡せなかった、から。
そんな、弱り切った笑顔と一緒に。
彼が差し出した一枚の、紙切れ。
紙飛行機の形に折られた、婚姻届。
私の元居た国で、愛し合う二人が永遠を誓う為の——儀式。
だけど、何を今更。
約束、したじゃないか、と。
噛み付く暇すら、彼は与えてくれなかった。
己が、既に彼の覧はびっしりと記入済みのそれに
己の名前を書き終えて。判を押すと、ほぼ同時。
「…—— ッッ …… 」
涙、堪える事が、出来なかったのは。
神は非情だと、姿も知らぬ幻に怒りをぶつける事しか
出来なかったのは。——きっと。
「… ——『イズカ』 ——… 」
籠から出して貰っても、何一つ自分の力でやり通す事が
出来なかった悔しさが、一番大きかったからだ。
くしゃくしゃに捩れた二人の紙飛行機を、唯
両腕に抱き締めて。——泣き崩れた。
シラキ。
泣くな。
強くなって、何時か此処に愛に来い。
待ってるから。
ずっと。
天高く、遠き空の上から。
俺はずっと、オマエを見てる——。
「…もう、私はくしゃくしゃのババァになっちまったけどねぇ…。
それでも、待っててくれてるのかねぇ…アンタは」
思わず、ベッドの中、馳せたのは遠い昔の小さな記憶。
夢に出てきた今も、色褪せない貴方の、姿。
「…それにしても。 …ははっ、コレを知り合いに見せた処で
一体何人が信じるんだろぅねぇ…——?」
チャリ。軽い音を立て、手に取った銀色の鎖。
その先に、錆びた楕円形のロケット。
静かに開けば、その中身———
何十年も前の
「上条 白姫」 の笑顔が、其処に。
「シラキ」になる直前の、淑女だった自分。
「…今は、「アオキ」だけどねぇ…——」
呟いて。度のキツイ煙草に火を付けて。
全く客を出迎える気の無い店を、其れでも。
———続けよう。
生きよう。
もっともっと、よぼよぼになって。
そして、皺だらけの顔で、貴方に言いたい。
「——遅く、なりました」
そう、笑って————駆け寄ろう。
きっと。
きっと。
===========================
ババァの過去。
色々と伏線を明かしたつもりで
明かしきれていないというね。
でも、偶にロールに出てくる
ピンク色の灰皿は、イズカさんから
ちゃんと頂いたものですよ。
話の中には、入りきらなかったので
此処に追記しときます(ははは)
富も、地位も、美貌も、名声も、周りからの信頼も。
欲しいモノは全て、与えられた。
服も、宝石も、お金も、友達も、そして異性も。
——だけど、与えられるそれらを、己自身で選ぶ事は
何一つとして、出来なかった。
与えられるモノだけを、唯笑顔作って手元に置き
受容して受け入れるだけの——そんな、日々。
ぬるま湯に浸るように、刺激も痒さも痛みも、そして
快感も満足度も、達成感も無い。例え何を手に入れたとしても。
———そんな時間が、永遠に続くと思っていた。
ずっと。
「上条 白姫」として、此の世に生を受けてから。
財閥の一人娘として、其れこそお姫様のように、
可愛がられて育てられ、甘やかされ。
一人では塀の外も満足に歩けないような
トイレの入り口ですら、ガードマンが張り付くような。
——純白のドレスに、淡い桃色のリボン。
黒曜石のように艶めいた長い髪。
鮮やかな翠の瞳は、西洋生まれの母親から受け継いで。
綺麗に磨かれた革靴を鳴らしながら、土埃一つ立たないような
整備された歩道のみ、歩かされる。
移動は殆ど、高級な車輪の付いた乗り物で。
——ずっと。
そんな日々が、続くと、思って、いた。
「籠の中から、連れ出してあげますよ。シラキ」
そんな巫山戯た戯れ言を、軽く笑いながら寄越して。
此方に伸ばされる、日に焼けた逞しい片腕。
異国の血を思わせる、鮮やかなブロンドに蒼の瞳。
「染めたんだけどな?眼はカラコン」
——嗚呼、一瞬騙されて仕舞ったけれど。
表を向けて、差し出された大きな大きな、掌を。
戸惑いながらも、あの日私は、取ってしまった。
「——蒼樹」
「下の名前で呼んで下さいよ、姫さん」
「私は貴方の下の名を知らない」
「教えてあげます。 姫さんにだけ」
「姫さんは止めてくれないか。 …さっきみたいにシラキと」
「なら、俺の事は……『 』と呼んで下さい。これから」
「これから ?」
「死ぬまで、ずっと」
「——本気か?」
「俺は最初から、本気でしたよ。盗賊はね、欲しいモノは
何としてでも手に入れるんです。命をかけてでも」
「後悔するぞ。直ぐに」
「しません」
その日。
——私は「上条 白姫」を棄てた。若干二十歳の、誕生日。
それから。
数々の追っ手を振り払い、探し人と指名手配のビラを剥がし
山を登って谷を越え、海を渡って——彼と共に。
財閥の御令嬢から、凶悪な盗賊団に攫われた一人の女になって。
だけど。
一緒に過ごせた時間は、余りにも——
短かった。
追っ手から無事逃れる事が出来たのに。
誰にも捕まらずに逃げ通せたのに。
海を渡って、辿り着いた平和な場所で。
ずっと幸せに浸りながら、生きていけると思っていた———
「もう、駄目なのか…?」
「俺も、やれる手段は全部試した。——悪ぃ」
「…いや、御前がそう言うなら、他のどの医者を当たるまでも無い」
「——悪ぃな。彼奴、ずっと黙ってたンだろぅ。——限界迄」
新たな土地で知り合った、一件医者に見えぬチャラチャラした男は
眼を伏せながらそう言った。獣のニオイを微か漂わせる彼は
自称、人外専門医と名乗る男で、普段純粋な人間は診ないと言う。
私が好みのタイプだったから、願いを聞き入れて
診察したのだと、冗談気に笑いながら。
されど、患者の様子を一目見れば、直ぐに笑顔は悲痛めいた
沈黙へと変化を遂げた。——末期の、伝染病だった。
幼い頃、過保護故幾つもの予防接種と度重なる健康診断に
守られていた私だけが、感染せずに済んだ根の深い病。
他の仲間も、次々、見知らぬ土地で果てていった。
「 『 』…入るぞ」
「嗚呼…シラキ。すまねぇなぁ。心配かけて」
「…馬鹿、言うな」
「——泣くなよ」
「泣いてなんか、無い」
…あのな。
今更、だけどヨ。
コレ、ずっと、持ってた侭、渡せなかった、から。
そんな、弱り切った笑顔と一緒に。
彼が差し出した一枚の、紙切れ。
紙飛行機の形に折られた、婚姻届。
私の元居た国で、愛し合う二人が永遠を誓う為の——儀式。
だけど、何を今更。
約束、したじゃないか、と。
噛み付く暇すら、彼は与えてくれなかった。
己が、既に彼の覧はびっしりと記入済みのそれに
己の名前を書き終えて。判を押すと、ほぼ同時。
「…—— ッッ …… 」
涙、堪える事が、出来なかったのは。
神は非情だと、姿も知らぬ幻に怒りをぶつける事しか
出来なかったのは。——きっと。
「… ——『イズカ』 ——… 」
籠から出して貰っても、何一つ自分の力でやり通す事が
出来なかった悔しさが、一番大きかったからだ。
くしゃくしゃに捩れた二人の紙飛行機を、唯
両腕に抱き締めて。——泣き崩れた。
シラキ。
泣くな。
強くなって、何時か此処に愛に来い。
待ってるから。
ずっと。
天高く、遠き空の上から。
俺はずっと、オマエを見てる——。
「…もう、私はくしゃくしゃのババァになっちまったけどねぇ…。
それでも、待っててくれてるのかねぇ…アンタは」
思わず、ベッドの中、馳せたのは遠い昔の小さな記憶。
夢に出てきた今も、色褪せない貴方の、姿。
「…それにしても。 …ははっ、コレを知り合いに見せた処で
一体何人が信じるんだろぅねぇ…——?」
チャリ。軽い音を立て、手に取った銀色の鎖。
その先に、錆びた楕円形のロケット。
静かに開けば、その中身———
何十年も前の
「上条 白姫」 の笑顔が、其処に。
「シラキ」になる直前の、淑女だった自分。
「…今は、「アオキ」だけどねぇ…——」
呟いて。度のキツイ煙草に火を付けて。
全く客を出迎える気の無い店を、其れでも。
———続けよう。
生きよう。
もっともっと、よぼよぼになって。
そして、皺だらけの顔で、貴方に言いたい。
「——遅く、なりました」
そう、笑って————駆け寄ろう。
きっと。
きっと。
===========================
ババァの過去。
色々と伏線を明かしたつもりで
明かしきれていないというね。
でも、偶にロールに出てくる
ピンク色の灰皿は、イズカさんから
ちゃんと頂いたものですよ。
話の中には、入りきらなかったので
此処に追記しときます(ははは)
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