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非公開
趣味:
妄想、空想、脳内創作活動全般。
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どうも。店主のレノです。此処は「堕落街」のキャラサイト。
知らない人、18歳未満の方、同性愛に嫌悪感を感じる方は、廻れ右が吉。
そうでない方は、どうぞごゆっくりおくつろぎ下さい。
焙じ茶ですか。それとも宇治茶?御饅頭と水菓子もご用意致しました。
——ようこそ。風月茶屋へ。
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…欲しいモノは、そんなモノじゃないのに。
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「英さん」

耳元で声が聞こえる。己を呼ぶ、何時もの少し高い特徴的な音。
思わず寝返りを打つように、白いシーツの上、相手に背を向ければ

「こっち向いて下さいよ」

ばかん。

遠慮の欠片もない頭への一撃と、何処か素っ気ない拗ねたような声音が続いた。

仕方なく身体ごと其方へと振り返る。
此方の顔を覗き込むように、問われるその事

「具合はどうですか?」

「良さそうに見えるのなら、御前こそ眼科へ行くべきだ」
間髪入れず、返す詞に向けられるのは、案外穏やかな笑顔。

——何時もの、見飽きた、否、見慣れた。

「医者が行ってましたよ。今夜が峠だって。
ぁーあ、此の不機嫌な面拝めるのも、今夜が最後ってことですかねぇ」

けらけらと、捻子が外れたように一頻り笑った後。
不意に真面目な顔付きに戻れば、横たわるその額に、暖かな掌が触れる。

「…まぁ、あれだ。心配しないで下さい。——約束は、守りますから」

「…約束なんて、していない」

急に何を言い出すのかと、訝しげな顔を作って返す。

「貴方が寝こけている時に、私が勝手に約束したんです。——貴方の寝顔に」

阿呆みたいに穏やかなその笑顔を、何ら崩すことなく言い切る相手は。

己の片手をキツく握り締めながら、されど唯、笑って

「…ずっとお側に居ますから、って」

あの時の詞を、再びそうして、繰り返すように呟いた。


あの日。未だ小柄な少年だった目の前の相手。
家が破産し、親に売られて此の家を訪れた、正しく絵に描いたかの如く
不幸な子供。されど、意志が強そうな黒い瞳を懸命に大きく開き、
片手を差し出しながら、口にした。


僕にはもう、帰る処が無い。
だから、貴方の側に置いて下さい。
使用人として、出来ることは全てやりますから。
——ずっとお側に居ますから、僕を此処に置いて下さい。


そんな彼の目が気に入って、差し出される片手を、そっと此の手で
握った記憶。——随分前の事なのに、未だ記憶に新しい、その時の彼の笑顔。





「…苦しそうですね」

刻は過ぎ、夜半。欠けた月が夜空を寒々しく照らし出す、夜更け。
何時もは気に為らぬ、黒猫の不気味な鳴き声が、今宵は妙に勘に障った。
病人が沈む床の間の真横で、不躾な兄弟が形だけ可愛がる飼い猫。
——猫に罪を被せるつもりは毛頭無いが、楽しそうな彼らの笑い声を
耳に入れれば、不意に殺したい衝動に駆られる。…何時もの風景。何時もの事。


「…苦しくなさそうに見えるのなら、今すぐ脳外科に行ってこい」

「そんな軽口が聞けるのなら、未だ大丈夫ですよ」

「…苦しい、と言えば、御前は楽にしてくれるのか。私を」

「…貴方が、それを望むのなら」



「——延命治療は、もう飽きた」

暫しの間を置いてから、彼に伸ばす片腕は。
空を掴む事無く、きちんと握り替えされ、その体温を脳裏に伝える。

嗚呼、こんなに暖かかったんだな。

弱り切ってしまえば、何時もは別段感じる事無きその熱も。
凄く、在りがたいものに感じてしまうのだ。

「…怜」

小さく口にする、たった二文字の短い詞に。
されど、驚きと動揺を露わに見開かれる相手の瞳は、吸い込まれそうな漆黒。
震える口元が、動く。

「…初めて、名前…呼んで、くれたんじゃないですか…?」

「二度目だ。御前が寝ている時、ひっそり呼んだ事がある」

「…其処は、ちゃんと起きてる時に呼んで下さいよ」

「……五月蠅い」

「———ねぇ、もう一度、呼んで」

「…—— …  」

「 …もう一度、呼んで下さい 」

「…—— …  」

「… …  聞こえません  」


刹那、覆い被さるように縋り付く、相手の背を。
仕方がないな、と抱き抱えるよう、下から片腕を回してやった。

 
「…怜」

その耳元、囁いて相手の希望を叶えてやれば、がばっ、と勢い良く
顔だけを上げる相手の黒い双眸は、水面のようにゆらゆらと揺れていた。

——幸せそうに。嬉しそうに。


「楽に、してくれ」

その詞を、表面上はそっけなく。内心ではかなり無理矢理吐き出して。
途端、勢い良く咳き込む白いシーツの上、広がるそれは、紅くどす黒い液体。


「…貴方が、望むなら」

間を置いて重なる唇は、苦い血の味がした。
長い永い時間が過ぎたような気がしたのは、恐らく。


——それが、最後の生きた時間だったからだ。


視界が反転し、相手の貌が逆さまになって宙に浮かぶ。
夢現を漂うような、されどそれは心地よい感覚だった。
離しはしないと己にしがみつくその腕は
その意志通り、終ぞ離れる事は無い。


「…愛してます」

「…知っている」

「知ってて、知らないフリを貫き通してきたんですか」

「…臆病なんだ」

「知ってます」

「…——御前だって、今まで口に出してこなかっただろう」

「…今、言いましたよ。ちゃんと」

「……遅すぎる」

「良いんです。ちゃんと、通じたのなら」


意識が途絶えるその前に、かわすやりとりは
とても、不器用で。そっけなくて。呆れる程、素顔のまま。


「…やっと言ったな」

「——やっと、受け入れてくれたんですね」



瞳を、閉じた。





後に残ったもの。


空になった水差し。
茶色い盆。
空になった小さな硝子の小瓶。毒々しい赤色の蓋。


重なるように、命が途絶えた二つの抜け殻と。

——枕元に、紅い一輪の、曼珠沙華。



=========================================
書きたかったんです(…)
元ネタは多分、若干一名しか知らないと思うのよ(遠い目)

なので、補足になってない補足↓

一ノ瀬英(いちのせすぐる)(38)(♂)
→名家の跡取り予定だった人。されど、35で重度の肺結核を患うと
 同時にお役御免となり、本家の離れに隔離される。
 表と裏があり、その本性は冷酷で残忍と見せかけた実は、単なる寂しがり屋。
 「沙砂」のNPCとして一度だけパス茶に出没。

怜(れい)(26)(♂)
→庶民の生まれ。財政難と共に捨てられ、一ノ瀬家の使用人として買われる。
 結局一ノ瀬家の、というよりは英単体の使用人となり、病に臥せる
 彼の身の回りの世話の全てを任された。顔で笑って心で泣いて、を地で行く人。
 意地っ張りなのに素直で一途な、そんな子供っぽさは、最後迄抜けなかった。


…みたいな。
まぁ、後は知ってる人が「ああ」と思ってくれれば良いです。
…——あ、ははははは(…)
でも、NPCじゃないとこんな文章も書けないので。
書いてる本人は、結構楽しかったんですよ(…ぺこり)






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